ちょっと趣向が異なる工場の見学をしてみたい、と思って君津にある新日鐵住金の製鉄所見学へ申込み。設備も製品も想像以上の大きさで迫力一杯でしたが、一方で「もっと見たい」という物足りなさも感じる見学会でした。
木更津から富津に向けてR16を走っているとすぐに、「妙にだだっ広くて、でも深い林に邪魔されて海が見えない」道が数キロ続きますが、今回の目的地「新日鐵住金君津製鉄所」はこの林の向こう側。
まずは事務本館に集合。ちょっとした展示スペースには様々な種類の鉄製品の特長と使い道などの紹介や会社の歴史などが紹介されている他、卓越した技能力を持つ現場のスペシャリストの面々を「スチールマイスター」と称して顔写真付きで掲示していて、さすが長い歴史を持つものづくり企業と感じます。
またこれらオープンスペースの廊下と天井がメッキ処理された鉄板で覆われていたり、また見学の後でわざわざ「スチール缶のお茶どうぞ」と言いながら出してくれるなどは、これまたさすがの徹底ぶり。
東京ドーム220個分(=TDL 20個分だそう…)という広大な敷地を占める君津製鉄所は、直接船を横付けして鉄鉱石など原材料を陸揚げし、コークスを作って、銑鉄を作って、鋼として成分調整して、固めて、叩いて/伸ばして、製品に仕上げて、船積みして、出荷する、という一連の作業をこなす大小様々な工場と設備の集合体。また扱う製品は針金あり、自動車などで使う薄い鉄板あり、船で使う分厚い板あり、さらには発電機やモーターなどの巨大なシャフトあり…と、新日鐵住金が販売している全ての「鉄製品」を生産している主力工場とのこと。
これら工場や鉄づくりの概要について説明を受けた後、いよいよ現場見学スタート。ヘルメットと軍手を受け取って、バスへ。
敷地内には大小様々な建屋や設備が立ち並び、あちこちをパイプが走り回り、また多数の煙突が立っています。また構内のあちこちには巨大な鉄製品が並べられ、それを運ぶ巨大なトレーラが行き交い、加工中の鉄を運ぶための線路が多数敷かれて貨車が行き交う…これぞ重厚長大工業の一丁目一番地!って感じがビシビシ伝わってきます。
最初に向かったのは、製鉄所のシンボルとも言うべき「高炉」。鉄鉱石からドロドロに溶けた真っ赤な鉄(銑鉄)を作り出す巨大な装置。
外観から構造を想像するのは難しいですが、中央に大きな坩堝(内容積約5,500立米!)が聳え立ち、その周りを鉄鉱石などを投入するコンベア装置,高熱空気を吹き込むパイプ,排出ガスを回収するパイプなどが取り巻く設備の集合体。また坩堝の下には線路が敷かれ、耐火煉瓦で覆われた貨車に向かって真っ赤な銑鉄が注ぎ込まれてそのまま次の工程へ運ばれていきます。
これを「お立ち台」と呼ばれる(多分)200mほど離れた場所から見学します。この距離なのでさすがに熱気などは伝わってきませんが、巨大な設備から真っ赤な銑鉄が吐き出される様子を見ることができ、なかなかの迫力です。
ちなみに見学中唯一ここだけは写真撮影可ということで、折からの真っ青な空をバックに聳え立つ高炉の写真を撮りまくったのですが、直後に「でもSNSへ出すのはやめてください」の一言。う~ん、残念。
次に向かったのは「熱間圧延工程」。ここは、高炉で作られた銑鉄を成分調整の後一旦固めた鉄の塊(スラブ)を再び1,000℃以上に熱し、たくさんのローラーの間を連続して通していくことで薄い鉄の板を作る工程です。
幅1~2mの真っ赤な鉄の塊を最初はゆっくり、最後はかなりのスピードでローラーの間を通していく過程で前後方向へ薄く引き延ばしていくこの圧延工場では最長2kmの薄板を作れるそうで、このため長さ数キロに及ぶ直線路の様な構造になっています。ラインから10mほど離れたキャットウォークをラインに沿って歩きながら見学しますが、真っ赤な鉄が目の前のローラーの列を通り抜けていく時にはさすがに凄まじい騒音が鳴り響き、また想像以上の熱気が伝わってきます。
以上、普段は見ることができないであろう巨大な現場を2ヶ所見せていただいたのですが、なにか今ひとつ物足りない感じ。重厚長大なモノづくりの迫力はよくわかったのですが、でも…
巨大な高炉が真っ赤な銑鉄を噴出している様子を見ましたが、外から、しかも遠くからなので「人や装置が動いている」感がありませんでした。一方の圧延工程では真っ赤な鉄が持つ熱量と引き延ばされていく時の迫力は感じましたが、装置そのものの存在は(見た目)「単純」で、やはり「人」の存在を感じませんでした。
もちろん巨大な、あるいは真っ赤に熱せられた鉄を相手にする仕事なので、とにかく安全第一がMUST要件であり、その結果極力人が介在しない現場やとてもシンプルな工程に帰結してしまうのは至極当然ではあるのですが、結果「ものづくりの現場」を見た感じがあまりしない、というのが正直な感想です(まぁ、そもそもは素材産業なので、機械的な工程だけを見てモノづくりを云々するには相応しくない、ということかもしれませんが)。
そういう意味でも、例えばもう少し切削などの機械加工が入る工程や、一品モノの厚板工程などを見られると、もっと充実した見学かいになったかもなぁ、と思いつつ、見学終了。
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